横浜地方裁判所横須賀支部 昭和39年(ワ)69号 判決 1968年6月29日
主文
原被告等共有の別紙物件目録記載の土地、家屋を競売に付し
一、同目録第一の土地売得金を、被告田中が六分の三、被告丸健次及び原告両名が各六分の一の割合
二、同目録第二の土地売得金を、被告丸健次が六分の四、原告両名が各六分の一の割合
三、同目録第三、第四の家屋売得金を、被告田中が一五分の六、被告丸健次が一五分の一、原告両名が各一五分の四の割合にそれぞれ分配せよ
訴訟費用は被告等の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。
一、別紙物件目録第一、第二の土地はいずれも、もと原告両名、被告丸健次、訴外亡丸〓三、訴外亡丸ふみの五名の共有であり、持分の割合は被告丸健次が五六分の二八(二分の一)、その他の者がそれぞれ五六分の七(八分の一)であつた。昭和二〇年三月二二日丸〓三が死亡したため同人の持分五六分の七は当時戸主であつた被告丸健次が相続し、その結果被告丸健次の持分は五六分の三五に増加した。
二、別紙物件目録第三、第四の家屋はいずれも、もと原告両名、被告丸健次、訴外亡丸ふみ四名の共有であり、持分の割合は被告丸健次が五分の二、その他の者がそれぞれ五分の一であつた。
三、被告丸健次は昭和三七年九月一四日被告田中に本件第一の土地の持分五六分の三五のうち五六分の二八及び本件第三、第四の家屋の共有持分五分の二を売渡し、同日それぞれ移転登記を了した。
その結果被告丸健次の本件第一の土地に対する持分は五六分の七に減少した。
四、昭和三九年七月三〇日訴外(亡)丸ふみの死亡により、右訴外人には直系卑属がなかつたから、兄弟である原告両名及び被告丸健次の三名が同訴外人の有した本件土地、家屋に対する持分をそれぞれ三分の一宛相続した。
すなわち原告両名及び被告丸健次の右相続による取得割合は次のとおりである。
(一) 本件第一、第二の土地に対する丸ふみの持分それぞれ五六分の七(八分の一)を、その三分の一であるそれぞれ二四分の一宛
(二) 本件第三、第四の家屋に対する丸ふみの持分それぞれ五分の一を、その三分の一であるそれぞれ一五分の一宛
五、その結果現在における持分の割合は次のとおりとなつた。
(一) 本件第一の土地について
(1) 被告田中が五六分の二八
(2) 被告丸健次及び原告両名はそれぞれ五六分の七に前項の相続分二四分の一を加えた計六分の一宛
(二) 本件第二の土地について
(1) 被告丸健次が五六分の三五に前項の相続分二四分の一を加えた計三分の二
(2) 原告両名が五六分の七に前項の相続分二四分の一を加えた計六分の一宛
(三) 本件第三、第四の家屋について
(1) 被告田中が五分の二
(2) 被告丸健次が一五分の一
(3) 原告両名がそれぞれ五分の一に前項の相続分一五分の一を加えた計一五分の四宛
六、原告両名は訴外亡丸ふみが生存中の昭和三七年六月三〇日頃被告丸健次から本件不動産について分割請求を受けたが協議が成立しなかつた。
その後被告丸健次は被告田中に前記のとおりその持分を譲渡したが、なお分割の協議は成立しない。右分割については本件土地上に本件第三、第四の家屋並びに被告田中所有の二棟の家屋が存するため現物分割が不可能であるので、本件不動産を競売に付した上、売得金を各その持分の割合で分割するの他ないのである。
七、被告丸健次の主張に対し
被告丸健次が訴外亡丸ふみから同人の持分の遺贈を受けた旨の主張は争う。
原告らは丸ふみの生前同人の病気療養のため入院治療の手配をし、その費用及び生活費を負担してきたが、同人は右諸費用を本件持分で精算されたいと原告らに云つていたもので、遺言のことなどは一切聞知していない。
遺言書の成立は否認するが、仮りに遺言としての要件を具備しているとしてもその日付は昭和二〇年二月二五日とあり、以来すでに二〇年を経過しているものであつて遺言者の意思が死亡当時まで存続し、その効力が推持されていたと考えることは不当である。
八、被告田中善三郎の主張に対し
被告田中の主張は争う。被告田中が被告丸健次から譲渡を受けた持分は原告主張のとおりであり、また原告両名は被告丸健次に対して何等代理権を与えたことはない。
九、よつて本件物件を競売に付した上、その売得金を原被告各持分に応じて分配することを求める。
一〇、立証(省略)
被告丸健次は、原告の請求を棄却する、との判決を求め、次のとおり述べた。
一、原告の請求原因事実第一乃至第三項は認める。
二、第四項は否認する。被告丸健次は訴外亡丸ふみの持分全部を同人の遺言により遺贈を受け、その所有権を取得したものである。
三、第五、第六項は争う。
四、立証(省略)
被告田中善三郎訴訟代理人は原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、次のとおり述べた。
一、原告の請求原因事実第一項、第二項は認める。
二、第三項のうち被告丸健次が昭和三七年九月一四日被告田中に対し本件第三、第四の家屋の共有持分五分の二を売却し、同日右持分につき所有権移転登記を経由した事実、本件第一の土地につき原告主張のとおりの所有権移転登記を経由した事実は認めるが、本件第一、第二の土地につき被告田中が被告丸健次から所有権移転を受けたのは同被告の持分五六分の三五全部である。その余の事実は否認する。
三、第四項は認める。
四、第五項の現在の持分の割合に関する主張のうち
(一) 本件第一、第二の土地については否認する。
その持分の割合は次のとおりである。
(1) 被告田中は二四分の一五
(2) 原告両名は各二四分の四
(3) 被告丸健次は二四分の一
(二) 本件第三、第四の家屋については認める。
五、第六項の主張は争う。
六、被告田中が、被告丸健次から本件第一、第二の土地の共有持分五六分の三五及び本件第三、第四の家屋の共有持分五分の二の譲渡を受けた経緯及び本件土地の持分五六分の三五を取得した理由は次のとおりである。
被告田中は昭和三六年三月一六日本件第一、第二の土地のうち道路から向つて右側部分五〇坪を被告丸健次から建物所有の目的で期間の定めなく賃借し、その際権利金として金一〇万円を支払い、同日本件第三の建物(付属建物を除く)も賃借し、その後昭和三七年七月一〇日前記土地のうち更に二〇坪を借り増し、結局土地については七〇坪を賃借するに至つた。ところで被告丸健次は昭和三七年七月一三日訴外小谷野英幸から金一五〇万円を弁済期を同年九月一三日と定めて借受け、本件第一の土地、第三、第四の家屋の同被告の持分につき右訴外人のために抵当権を設定しその旨の登記及び右債務を期限に弁済しないときは右不動産の所有権を移転する旨の所有権移転の仮登記を経由した。
しかし被告丸健次はこれを弁済することができず、その窮状を被告田中に訴えたので被告田中は被告丸健次から本件不動産全部を代金五〇〇万円で買受けることとし、手付金として金一五〇万円を支払い、被告丸健次はこれを以て前記債務を弁済して前記各登記を抹消することができたのである。
右被告田中と被告丸との売買契約は昭和三七年八月一一日に成立したもので、被告田中は本件不動産の他の共有者の持分についても間違いなく所有権移転が得られるとの被告丸の約旨を信じて買受けたものであるが、結局被告丸以外の共有者の持分の所有権移転は受けられず、その後も他の共有者の持分の移転を受けることは不可能な状況にある。
被告丸は右売買契約を解除したかの如きことを云つているが、同被告に債務不履行の事実が存するのであつて、被告田中には何等その事実がないから解除理由は存しない。
ところで被告田中は被告丸から譲渡を受けた持分全部につき所有権移転登記を受けるべきところ、司法書士の過誤により本件第二の土地を除外して申請したためこの登記を受けていないが、本件第二の土地についても被告丸に対し所有権移転請求権を有するものであり、本件第一の土地については持分五六分の二八についてのみ所有権移転登記を受けているが、五六分の三五につき同登記を受けるべきである。
七、右のとおり被告田中は本件第一、第二の土地のうち七〇坪及び本件第三の建物について賃借権を有するものであるから、共有物分割については右の点を考慮されなければならない。
(立証省略)
理由
一、本件不動産の持分の割合について
(一) 原告の請求原因事実第一、第二項は当事者間に争いがない。
(二) 第三項は被告丸健次との間には争いがなく、被告田中との間においては本件土地に関し次に記載する部分を除き他は争いがない。
(三) 原告両名は被告田中が被告丸健次(以下被告丸という)から譲渡を受けたのは本件土地については第一の土地に対する被告丸の持分、五六分の三五のうちの五六分の二八のみであると主張するのに対し、被告田中は本件第一、第二の各土地に対する被告丸の持分五六分の三五全部であると主張する。
成立に争いない甲第五号証、乙第一号証、被告田中本人尋問の結果及びこれにより成立の認められる乙第二、第四、第五号各証によれば、被告田中は被告丸から本件第一、第二の土地の一部を昭和三六年三月一六日以来賃借してきたが、昭和三七年八月頃本件物件は被告丸の単独所有であると思い本件物件全部を金五〇〇万円で被告丸から買受けることとしたこと、被告田中が本件物件を買受けるに至つたのはその頃被告丸が右物件を担保として他から金一五〇万円を借用していて返済に迫られ苦境にあり、同被告から頼まれたためであること、ところが被告田中が昭和三七年九月一四日金一五〇万円を被告丸に渡して所有権移転を受けようとしたところ、本件物件は原告両名及び被告丸の共有であることが判つたが、前記の事情で被告丸は金一五〇万円を必要としたので、これを渡して被告丸の持分についてのみ譲渡を受けることとしたこと、当時被告丸は本件第一、第二の土地につき訴外亡丸〓三の持分五六分の七を相続により取得していたものであるが、その旨の登記手続をしていなかつたことが認められる。而して被告田中が所有権移転登記を受けたのは本件第一の土地についての持分五六分の二八(昭和三七年九月一四日の登記は昭和四〇年五月二二日更正)であり、第二の土地についてはその登記を受けていないことは当事者間に争いがない。
すると被告田中は被告丸から本件物件全部の譲渡を受け得る心算でいたのであるから少くとも被告丸の持分についてはその全部の譲渡を受ける考えであつた、被告丸は右認定の事情で被告田中に対してはできるだけのことをしなければならない立場にあつたから(被告丸は亡丸〓三の持分について相続登記をしていなかつた位であるから右持分を相続していることについて認識に欠けるところがあつたことが推認されるとしても)、被告両名間では被告丸の実質的持分について譲渡が行われたというのが実情に即する。しかし被告田中は原告両名に対しては第一の土地について五六分の二八の所有権移転登記を有するのみであるから、所有権移転登記を有しない第一の土地の持分五六分の七並びに第二の土地の持分五六分の三五の取得を原告両名に主張するについては、原告両名に対抗しうる事由がなければならないところ、これを認めるに足る証拠はない。故に被告田中は原告両名に対しては所有権移転登記により対抗しうる本件第一の土地の持分五六分の二八についてのみその所有権を主張し得るに過ぎない。
従つて本件第一、第二の土地につき被告丸の持分五六分の三五全部の譲渡を受けたという被告田中の主張はその理由がない。
(四) 第四項は被告田中との間には争いがない。
被告丸健次は訴外亡丸ふみの持分は、同訴外人の遺言により同被告が全部遺贈を受け取得したものであると主張し、原告はこれを争う。
成立に争いない丙第一号証の一によれば訴外亡丸ふみの遺言書につき横浜家庭裁判所横須賀支部において検認手続が行われていることは認められるが、右遺言書が有効に成立したものであることにつき被告丸は何等の立証をしない。
却つて原告両名本人尋問の結果によると、原告両名は亡丸ふみの生前同人から本件物件の持分を被告丸に遺贈するなどということは一切聞いていないのみならず、三、四年前他から被告丸が本件物件を勝手に売ろうとしているからとの注意を受け、これを亡丸ふみに話したところ、自分のものまで売られてはと慨嘆した位であるからこのような遺言を書くことは考えられないこと、右遺言書は右検認の際初めて見たが、亡丸ふみの筆蹟とは思われない点が多いことが認められので、被告丸の右主張はその理由がない。
従つて、訴外亡丸ふみの持分については原告主張のとおりの相続がされたと云うべきである。
(五) 第五項につき被告両名の争う点は前記認定により、被告らの主張が認められないのでその理由がなく、本件物件の現在における持分の割合は原告主張の次に記載するとおりである。
(一) 本件第一の土地について
(1) 被告田中は六分の三
(2) 被告丸健次及び原告両名はそれぞれ六分の一
(二) 本件第二の土地について
(1) 被告丸健次は六分の四
(2) 原告両名はそれぞれ六分の一
(三) 本件第三、第四の家屋について
(1) 被告田中は一五分の六
(2) 被告丸健次は一五分の一
(3) 原告両名はそれぞれ一五分の四
二、共有物分割請求について
成立に争いない甲第二乃至第四号証、乙第一号証、原告両名本人尋問の結果及びこれにより成立の認められる甲第七号証の一、二、被告田中本人尋問の結果及びこれにより成立の認められる乙第二、第四号証、弁論の全趣旨によると、本件物件が別紙物件目録記載のとおりであるところ、右土地のうち七〇坪は被告田中が昭和三六年頃から賃借して居宅及び事務所を建築して使用していること、原告両名及び亡丸ふみは被告丸から委任を受けたという細井鵲郎から本件物件の分割につき協議の申入を受けたが、右協議がされないうちに被告丸が独断で本件物件につき被告田中と売買契約をしたものであること、被告田中は本件物件全部につき所有権移転が受けられないので金一五〇万円を被告丸に支払つたのみでその余の支払もできないでおり、本件訴訟が提起されてから被告丸に対して協議の上解決したい旨を申入れているが、同被告は全然これに応じないこと、原告両名と被告丸の兄弟仲は被告丸に協力性がないため協議が困難の状態にあること、被告丸は本件訴訟の期日にも昭和四一年四月二六日以来引き続き不出頭であり、再度の被告本人尋問の呼出にも応じないことが認められる。
すると本件物件に対する共有物分割協議は到底困難な状態と云うべきであり、本件物件は不動産であるのみならず、被告田中がその一部を賃借し居宅、事務所を建築して使用しているため、現物を以て分割することには相当の困難があり、且つ分割のため著しく価格を損する虞があると考えられる。
三、従つて原告らの、本件物件を競売に付した上、その売得金を持分に応じて分配することを求める本訴請求はその理由がある。
四、よつて本訴請求を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。
別紙 物件目録
第一、神奈川県逗子市逗子六丁目八〇一番の二
一、宅地 七三四・七七平方米(二二二坪二合七勺)
実測八一〇・〇四平方米(二四五坪四勺)
第二、神奈川県逗子市逗子六丁目八〇一番の七
一、宅地 九・九一平方米(三坪)
第三、神奈川県逗子市逗子六丁目八〇一番の二
家屋番号 逗子七二四番
一、木造瓦及びスレート葺二階建居宅一棟
床面積 一階九〇・八〇平方米(二七坪四合七勺)
二階四八・〇九平方米(一四坪五合五勺)
一、附属
木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建物置
床面積 二四・二三平方米(七坪三合三勺)
第四、同所同番地
家屋番号 七二五番
一、木造瓦葺平家建居宅
床面積 五八・九四平方米(一七坪八合三勺)